大里桃子の勝利を支えたギア担当スタッフたち
2018年の国内女子ツアーは“黄金世代”と呼ばれる1998年度生まれのツアールーキーたちが大活躍した、とても華やかなシーズンだった。
CAT Ladiesを制した大里桃子もそのひとりだ。
しかし、それまで彼女を知る人はそれほど多くはなかった。
きん差のリードで迎えた試合終盤は、追い上げてきたベテラン実力者の足音に、初々しい表情の大里桃子はいつ崩れてもおかしくないと思われた。
だが、そのときも彼女の大きな可能性を信じ、すぐ近くで優勝の瞬間を待つ人たちがいた。
大里桃子が用具契約を結ぶブリヂストンスポーツ(BS)のプロ担当のスタッフたちだ。
そのひとり、大里桃子が信頼するプロ担当のひとりで、この道20年の中原氏はこう語る。
「桃子ちゃんのポテンシャルの大きさにはいつも驚かされます。成長が実感できるので、サポートのしがいのある選手のひとりです」
どんなに優れた才能も、それが開花するには、ギアを用意・調整する人々の存在は欠かせない。大里桃子のCAT Ladies 優勝のベースには、中原氏たちBSのプロ担当の献身的な働きがあった。
大里桃子が彼らに寄せる信頼と、それに応え、さらに彼女のポテンシャルを引き出そうと取り組む中原氏たちの強い絆に触れた。
どんな悩みにも
必ず解決のヒントが返ってくる
「ブリヂストンさんには、2年前にQTを通った(ファイナルQT16位の成績で翌年のツアー出場権を獲得)あとに契約していただきました。それまでもモニターで(BSの)クラブを使ってたんですけど、チューンナップはしたことなかったんです。契約後、自分に合ったクラブを選んでいただき、プロ担当の方に調整してもらったときにはびっくりしました。少し手を加えただけで、弾道が全然変わるんです。それからはクラブ調整が楽しくなって、いろいろ試してみるようになりました」
身長170㎝。フィジカル面で優れた大里はスウィングのスケールも大きい。昨年の開幕戦で初めてトラックマンの計測を行ったところ、ドライバーのボール回転数は3000/分を超えていた。女子ツアーの平均は2500回転程度で、3000回転を超えると距離は逆に伸びず、風に弱い球になってしまう。
また、大里にはアイアンを左に引っかけやすいという弱点もあった。
スウィングづくりは彼女とコーチでもある父親・充氏の共同作業だが、成長の“のびしろ”の大きな彼女にはギアの調整が重要になる。
「スウィングで取り組んでいる課題や、悩んでいることを相談すると、必ず何かヒントをもらえます。それは本当に心強いですね」と大里。
中原氏らが提供するヒントには、もちろん長年ツアーで蓄えてきた膨大なデータの裏付けがある。しかし、選手にはそれぞれ個性があり、目指すゴルフのスタイルがある。ギアに求めることは千差万別だ。
「絶対にしてはいけないのは、“他の選手がこれで上手く行ったから、桃子ちゃんもこれで”といった提案です」(中原氏)
中原氏たちプロ担当はBSが契約する10数名の女子ツアー選手ひとりひとりと真剣に向き合わなければならない。
提案され加えた50度で
ショートゲームに自信
とりわけ大里は高いポテンシャルを持つため、クラブのわずかな調整で球筋が大きく変わってしまう。
昨年、初めて迎えたシーズンの序盤、大里は6試合連続予選落ちなど、まったく結果を出すことができなかった。19歳のルーキーにはごく普通の「成長の過程」だろう。
5月以降、ギアのフィッティングも落ち着き、徐々に結果が出るようになったところで、新たな悩みが生まれた。7月末には、前年にわずか1打足りずに涙を飲んだプロテストも控えている。
大事な時期を前に生まれた悩みは、ちょうど100ヤード前後のアプローチだった。当時、ドライバーの飛距離が伸び、方向性も安定したため、ピンを狙うウェッジショットの機会が増えた。ところが、100ヤード前後を52度のウェッジでしっかり打つと、バックスピンがかかりすぎ、距離感を出すのが難しくなってきた。
「もともとウェッジのコントロールショットは好きなんですけど……。でも、100ヤードをしっかり打って寄せたいって相談したんです」
そこですぐに中原氏から返って来た提案は、50度のウェッジだった。大里のスウィングデータや当時の彼女のパフォーマンスの分析から「最適」と判断したギアだ。
それが直後のプロテスト(3位で合格)、それに続くツアートーナメントで力を発揮。
そして、そこで得たショートゲームの自信が、CAT Ladiesで開花することになる。
例年タフなピンポジションの最終18番パー5で、ピンまで約105ヤードの距離をピッチングウェッジでピタリ20㎝! 会場で、テレビを通して全国で観戦するファンの度肝を抜いたスーパーショットだった。
どこまで大きなプレーヤーに
成長するのだろう
「桃子ちゃんのスウィングは、海外のパワフルな選手のように、上から鋭角的に打ち込むスタイル。これだと、スタンダードなギアではスピン量が多くなりすぎます。そこをアジャストするのが僕らの仕事。それを僕らはデータから導き出すんですが、桃子ちゃんは感覚でそれが分かるんです。僕らの計算と桃子ちゃんの感覚はだいたい一致します。そこも彼女の優れた素質と思います」
中原氏は、大里桃子のポテンシャルの大きさからして、どこまで大きなプレーヤーになるのか、将来が楽しみな選手のひとりと評する。
大里自身も、つい2年ほど前までは小さくしか見えなかった“黄金世代”の仲間たちの背中が、もうすぐ手が届きそうなところに来た実感があるという。
それでもこの先、まだまだ挫折はあるに違いない。
しかし、彼女には恵まれたポテンシャルがあり、心身とも支えてくれる家族の存在があり、そしてブリヂストンスポーツのプロ担当という力強いギアのプロ集団がいる。
今年のCAT Ladies 。より成長した大里桃子に会えるに違いない。