大箱根CCのコース管理チーフマネジャー
﨑山朋己
舞台づくりのリーダーが語る
「年間を通じてトーナメントを強く意識し、
コース管理のスキルアップにつながった」
ゴルフの某大手ポータルサイトが毎年発表している「コースメンテナンスが高評価のゴルフ場 最新TOP30」で今年1位に選ばれたのが、Cat Ladiesの舞台=大箱根カントリークラブだった。
このランキングは、予約サイトに投稿されたユーザーの「口コミ評価」をもとに算出されたもので、掲載ページには、
「これだけメンテナンスの行き届いたゴルフ場はない」(40代・女性)
「景観も良く、トーナメントを思い出しながら楽しくプレーできた」(60代・男性)
「いつ行っても良いゴルフ場。私の中ではベスト3に入っている」(50代・男性)
といったコメントが紹介されている。
実際の利用者からこのように高く評価されたことに対し、同CCのコース管理課チーフマネジャーであり、いわゆるグリーンキーパーの﨑山朋己氏は、
「1998年から国内女子ツアー“Cat Ladies”を開催するようになり、年間を通じてトーナメントを強く意識したメンテナンスを実施することによって、年々スキルアップを図れてきました」と管理技術向上の背景にこの大会の存在があると語っている。
トーナメント開催コースは、その時期に最高のコースコンディションに仕上げることが求められる。だが、その半面で、一般プレーヤーには我慢してもらう時期が少なからずあるはだ。
ところが、大箱根CCには、前記の「いつ行っても良いゴルフ場」というプレーヤーの声が寄せられる。どうしてそのようなコース管理ができるのだろう。
今年、23回目(大会の開催は今年が第24回目)のCat Ladies開催を前に、日本女子プロゴルフ協会(LPGA)と運営関係者等によるコース下見に同行し、﨑山グリーンキーパーに話を聞いた。
まずは、今回の高評価について、
「嬉しいですね。お客さまからお褒めの言葉をもらうと頑張ってきて良かったなと思います」と感謝の言葉を述べたうえで、
「でも正直、(コース管理が)うちより素晴らしい、目標となるコースは他にいくつもあります。ただ、コースの状態を、一年を通して大きな波のないことを目標に取り組んできまして、昨年はそれがうまく行きました。それで、高い評価をいただけたんだと思います」
その「大きな波のない」管理とは?
「芝の状態を常に100で維持しようとすると、必ず反動が来て、例えば50にまで落ち込む時期があります。それでは、そのときに来られたお客さまに失望を与えてしまいます。私は、いつも85くらいの状態でいいかな、と思っています。そして、8月のCat Ladies は100の状態で迎えたい。それには、その3週間くらい前に一旦120を目指します。それができれば、天候上、芝に何かあってもすぐに回復できますから」
しかし、Cat Ladiesの3週間前というと、例年であれば梅雨明け直後の猛暑が始まる時期で、芝には一番ストレスのかかる頃だ。しかも、避暑地の人気リゾートゴルフ場である大箱根CCは、最も忙しいトップシーズン。そのときに芝を最良の状態に整え、維持するのは至難のわざだろう。
「ここの管理を長くやらせてもらってますので、芝のコントロールはある程度できるようになりました」と崎山グリーンキーパーは笑う。
だが、「そのためには」と明かしてくれたのは、
「真夏のグリーンを堅く仕上げるには、(芝育成の)春先のスタートダッシュが重要で、春先にいいスタートダッシュを切るには、その前の秋の管理が決め手になります」ということだった。
結局は、年間を通して気の抜けない仕事なのである。
﨑山グリーンキーパーは現在52歳。農業高校を卒業後、もともと動植物を育てることが好きだったこともあり、自然を相手にするこの職業に就いた。
それから約30年。最近はわずかでも時間があれば、日本オープンの開催コースや芝の管理で著名なゴルフ場を見学して回っている。
それは国内に限らない。
セントアンドリュースをはじめ世界中の名コース、有名なトーナメントコースを訪ねている。
今年は念願のマスターズも観戦。続いて全米オープンが開催されたペブルビーチにも足を伸ばし、ともに可能な限りコース管理に関する情報を集めてきた。マスターズの舞台=オーガスタナショナルGCでは、閉門時間が迫り、係員に退場を促されるまで場内に残り、管理作業の様子を微に入り見学、多くの発見や参考になることがあったと嬉しそうに語る。
勉強熱心ですね?
「いえいえ、勉強熱心というわけじゃありません。せっかくCat Ladiesのような立派なトーナメントの舞台に選ばれ、たくさんの人が参加しているんですから、より良い舞台にして、みんなに喜んでもらいたいじゃないですか」
その結果、自然に向上心が湧いてきたと言う。
そんな﨑山グリーンキーパーが大いに刺激を受けているのが、Cat Ladies のゼネラルプロデューサー・戸張捷氏だった。
この日のコース下見は、戸張氏からコースセッティングに対する指示や要望が﨑山グリーンキーパーに伝えられる場でもあるが、そこで交わされる話は大会に関することだけではなかった。
「戸張さんからはセッティングやコース管理のことだけでなく、コースの造形や植栽など、いろんなアドバイスをいただいています。それも、世界のトップの現場を知っている方ですから、“そのことなら、あのコースを見てくるといい”って内外のゴルフ場を教えてもらえるんです。それで実際に行ってみると、戸張さんの言われた通りなので、本当に勉強になります」と嬉しそうに話す。
「Cat Ladiesは、確かに気候的に芝には厳しい時期で、気を使うことは多いんですけど、その分、我々のスキルの向上につながっています。最近はうちの若いスタッフも意欲的で、他所のトーナメントにコース管理のボランティアとして参加するほどです」
冒頭に紹介したゴルフポータルサイトの「コースメンテナンスが高評価のゴルフ場」のランキング企画の記事は、﨑山グリーンキーパーの次のような言葉で締めくくられている。
「従来の考え方や方針を見直し、パラダイムシフトさせていくことが、来場されたプレーヤーにご満足いただき、新たなゴルファーを増やすことにつながると考えています。これからもチャレンジする気持ちを忘れず、新たなイノベーションを生み出すことができるようスタッフ一同努力してまいります」
Cat Ladiesが、こうした先進的な﨑山グリーンキーパーたちのモチベーションのひとつになっていることをとてもうれしく、そして誇りに思う。