道路の築造・舗装、橋梁、河川など数々の公共工事を担い、地元・山形と共に歩みながら、県内屈指の土木工事専業者として躍進を遂げてこられた泰昌建設株式会社様。
i-Constructionも積極的に推進し、ICTを全面的に活用した生産管理体制をいち早く整えています。
同社の2代目社長として強力なリーダーシップとマネジメント力を発揮されている渋谷哲様にお話を伺いました。
「現場第一主義」と徹底したデータ管理を原動力に成長を遂げる。
泰昌建設様の設立は、今から遡ること半世紀以上前。もともとは渋谷哲社長のお父様が経営する親会社・渋谷建設株式会社の一部門として活動をスタートしましたが、1966年にお母様の美重(よしえ)様を代表取締役として分社する形で独立しました。当初は山形県内を南北に縦走する最上川と寒河江川(さがえがわ)の合流点での川砂利採取を事業の柱としていましたが、資源の枯渇に伴い建設業にシフト。女性社長ならではの堅実な経営で着実に業績を伸ばしました。
哲様は、大学で土木工学を専攻された後、お父様の下で現場管理の大切さを厳しく叩き込まれたといいます。
「売り上げも信頼も、すべては現場から生まれます。現場をないがしろにして私たちの仕事は成り立ちません。社長という立場になって30年近くになりますが、今でも必ず週に2、3度は現場を巡回し、安全管理や作業の段取りに目を配るようにしています」
亡くなる前日まで作業着姿で陣頭指揮を執っていたというお父様の背中を見ながら「現場第一主義」を学んだ哲様は、その後、お母様の跡を継いで泰昌建設様の2代目社長に就任しました。「母からは“ 数字(原価と売り上げのバランス)”を徹底的に管理することを教えられました。母が社長だった頃は、チラシの裏に原価をびっしり書き出して計算していましたが、現在はすべての収支をリアルタイムに把握できるデータ管理システムを作り上げ、月単位で収支を弾き出して業務のマネジメントに活用しています」
現場の動きと、その成果である数字の動き、両方をいかに正確に把握し、うまくかみ合うようにコントロールするかが経営者の腕の見せ所であり面白さであると語る哲様。情報技術をいち早く業務管理に取り込み、収支の「見える化」を実現した泰昌建設様は、i-Constructionの導入においても県内で先陣を切り、測量から設計、施工、出来形管理まで一気にICT化する体制を整えました。
「導入に際しては(日本キャタピラー)山形営業所の松田さんにテスト稼働を実施してもらって決定を下しました。作業効率と施工精度の両面で旧来工法との大きな差を感じましたが、最も魅力的だったのは、現場のあらゆる作業の成果をデータで『見える化』できる点でした。日々の作業を通じて集積されるデータベース、その宝の山からどんな問題点やヒントを見つけ出し、生産性の向上や現場管理の改善につなげていけるかは、当社が今後も成長していくための鍵になるだろうと考えています」
全工程を一気にICT化して現場を刷新。
本社でのインタビューを終えてお邪魔したのは、東北中央自動車道(東根~尾花沢)の建設現場。こちらでも泰昌建設様は3次元起工測量から3次元設計データの作成、マシンコントロールによる施工、検査まで全工程を一貫してi-Constructionで対応されています。
「当社は蝉田(せみた)地区道路改良工事を担当し、名取工区で切り出した土砂を長瀞(ながとろ)工区へ運んで高速道路の土台となる盛土を築いています。土砂の掘削・積込みには320、盛土の敷き均しと締め固めにはそれぞれD3K2、CS56B(振動ローラ)を投入していますが、マシンコントロールによる生産性は従来とは比べ物になりません。作業自体がスピードアップするだけでなく、丁張りや施工中の精度確認が不要になり、またオペレータがいちいち乗降して法面の仕上げなどを確認する手間ヒマもなくなりました」
そう語ってくださったのは、社内きってのICTのエキスパートである笹原正浩工務副部長。笹原様は常日頃からキャタピラーと最新の製品やテクノロジに関する情報を共有し、建設生産システムをアップデートするリーダー役も務められています。CS56Bも笹原様の提案によって、泰昌建設様が山形県で最初に購入されました。
「この一帯は地盤が軟弱であるため、強度を増加させる対策としてセメント改良土による『プレロード工法』を採用しています。ブルドーザで30cmの厚さに敷き均した土砂をローラで締め固める作業を繰り返し、ミルフィーユ状に盛土を何層も重ねて積み上げていくのですが、タイヤローラからCS56Bにリプレースすることで6~8往復掛かっていた締め固めが4回で済むようになりました。しかもCS56Bならさまざまな振動パターンが選択できるので、土質に応じて最適な転圧を行うことができます」
オペレータとしてさまざまな機械を10年以上にわたって乗り継がれてきた山内俊様は、作業の安全面におけるICTの有用性を実感されているそうです。
「機械に乗っているときは事故を防ぐために絶えず神経を尖らせていなければなりませんでしたが、320の専任オペレータになってからはそうしたストレスが軽減されました。丁張りなど機械のそばでの危険を伴う作業が減っただけでなく、過積載による運搬走行中の事故を予防できるペイロード計量システム、周囲の構造物や作業員との接触事故を防いでくれるE-フェンス機能など、安全性を配慮した最新機能が搭載されていて、オペレータに大きな安心感を与えてくれます」(山内様)
笹原様は「実績を積み上げながら日々修正して今のICT施工を完成形に近づけながら、『BIM/CIM(Building /ConstructionInformation Modeling)』の導入など、一歩先をいくi-Constructionにも積極的にチャレンジしていきたい」と今後の意気込みを語ってくださいました。
強みを磨きながら、時代の流れを捉え、変化に対応していく。
徹底したデータ管理に基づく緻密なマネジメント、現場の全工程を一気にICT化するi-Constructionの導入。先取的なアプローチで自社を成長に導いてきた哲様は、「建設会社の経営スタイルは今後2つの方向に分岐していく」とお考えです。
「一つは、商社的な形で下請けを使いながら仕事を回し、利益を追求していくゼネコンスタイル。もう一つは、自社で現場をこなしながら、生産性の向上を図ることで利益を追求する専門工事業スタイルです。当社は『現場第一主義』でやってきた強みを生かし、後者のスタイルで勝負していきたいと思っています。そのためには、社員一人ひとりに“会社を担っている”という意識を浸透させることが大事です」
泰昌建設様では、トップだけでなく現場の社員にも問題意識を共有し、全社一丸となって改善を図っていくため、会社の現状や個々の現場での課題を公開して意見やアイデアを自由に出し合えるオープンな環境を作り上げています。一方的に指示を出して守らせるのではなく、社員自らがどうすれば今よりもっと良くなるのかを考えて、工夫し、行動する、そうしたモチベーションを引き出さないと組織は強くできないと哲様は語ります。
また、時代が大きく変わっている中で、建設業界の常識や基準も見直さなければならない時機に来ているといいます。
「当社にとって今、最も大きな課題は『働き方改革』への対応です。労働時間を減らしながら利益はしっかり上げて、社員の待遇改善や働きやすい環境づくりをしていく。それができないと当社の将来を担っていく若い人材を確保できなくなります。i-Constructionも一つの答えですが、若い人たちに門戸を広げるための手立てを積極的に打っていかなければなりません。近年頻発している自然災害や急激な気候変動に負けない強靭な国土整備を進めるためにも、建設業の役割は今後ますます重要なものになっていくはずです。人が自然の中で生きるために、建設はなくてはならない仕事です。国や県、市町村などの自治体、キャタピラーをはじめとする建機メーカー、そして私たちのような企業が一体となって建設という仕事に新たな活気を吹き込み、将来につなげていければと思っています」
私たちキャタピラーも、土木・建設の明日を見据えたテクノロジとソリューションのご提案を通じ、泰昌建設様の挑戦を応援していきます。
泰昌(たいしょう)建設株式会社
代表者:渋谷 哲(さとし)
本社所在地:山形県山形市城西町一丁目6番22号
設 立:1966年
従業員数:53名
事業内容:道路築造・舗装工事、橋梁架設工事、ダム築造工事、河川工事など土木工事全般